東京家庭裁判所 平成5年(少)6599号 決定
少年 A・S(昭和54.5.15生)
主文
少年を養護施設に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、Aと共謀の上、
第1 平成5年7月14日又は同月15日の午後3時ころ、東京都江戸川区○○×丁目××番先路上において、氏名不詳者が窃取し遺留したと認められる、B所有にかかる自転車(車体番号×○××××××)1台(時価1万円相当)を発見しながら、警察署長に届け出るなど正規の手続きを取らず自己の物として勝手に乗り回し、もって拾得横領し
第2 同年8月2日午後8時30分ころ、東京都江戸川区○○×丁目××番自転車置場内において、C子所有にかかる自転車(車体番号×○D××××)1台(時価1万5000円相当)を窃取した
ものである。
(法令の適用)
第1の事実につき、刑法60条、254条
第2の事実につき、刑法60条、235条
(処遇の理由)
1 本件各非行の内容それ自体は、比較的軽微なものともいえるが、少年が自転車の鍵を開ける道具をいつも携帯していること、少年は本件以外にも2件の自転車窃盗を行っていると自認していることなどから、少年の非行性は決して軽微とはいいがたい。
しかも、少年には、以下にみるとおり、その要保護性に実に深刻なものが認められる。
2 すなわち、少年は、平成4年4月に板橋区立第×中学校に入学したものの、間もなく友人の変化等から胃潰瘍を患い、更衣室に隠れるなど学校生活に不適応をきたし、同年8月31日に実母が少年と少年の実妹及び2人の異父妹と共に、当時居住していた母子寮を退寮した後、完全に所在不明で不登校の状態になった。
その後、実母と少年らは知人宅等を転々とした後、平成5年4月から実母の内夫の母親宅の2階に居住するようになったが、その間、少年の実母は、少年及び少年の実妹の転校手続きを何ら行おうとせず、本件を契機に少年の所在が判明し、上記中学の校長や児童相談所の担当者らが再三にわたって少年宅を訪問して説得しても、種々の口実を設けて結局現在まで少年を学区内の中学校に登校させようとしていない。そして、少年は、観護措置を取られるまでの毎日を、実母の代わりに3才と1才の2人の異父妹の子守を行い、合間を見て、遊び仲間とゲームセンターや銭湯等に行って過ごしていたものである。
3 また、実母は、少年の養育監護の意欲は有し、学校関係者らによる少年の養護施設入所の勧告を頑なに拒み続けるものの、その養育態度は極めてだらしなく、しかもそれについて問題意識を感じている様子が全くなく、今後改善される見込みはない。
他方、少年の実父も、少年と少年の実妹を引き取る意欲を示しているものの、平成6年2月に刑務所を再び仮出所してきたばかりであり、その生活状況は安定しているとはいえず、しかも少年らの親権の変更を巡って実母との間で対立葛藤が予想され、少年を父親の監護に委ねることも困難である。
4 ところで、少年は、学校の友人や妹らに思いやりのある態度を示すと評価されているものの、就学以前、実父が刑務所に服役したり、実母の内夫から暴力を振るわれるなど、不安定な家族関係の中で生育し、しかも実母が少年の躾指導をほとんど行わなかったためか、情緒面及び社会性の発達が極めて未熟であり、内省力も乏しいため、遊び中心の仲間との付き合いの中で本件各非行を初めとする自転車盗を学習反復するようになったといえる。
5 したがって、以上を考慮すると、少年の健全な育成を期するためには、少年を養護施設に収容し、安定した環境の中から中学校に通わせ、併せて少年に年令相応の生活習慣及び社会性を身に付けさせるため周到な指導を受けさせるのが相当である。
よって、少年法24条1項2号を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 西井和徒)